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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)139号 判決

東京都中央区日本橋室町2丁目2番1号

原告

東レ株式会社

同代表者

前田勝之助

同訴訟代理人弁護士

田中美登里

吉田和彦

同 弁理士

香川幹雄

アメリカ合衆国 ニューヨーク州 ニューヨーク フィフスアベニュー 767番地

被告

クリニーク・ラボラトリーズ・インク

同代表者

レスリー A.モラディアン

同訴訟代理人弁護士

関根秀太

"

主文

特許庁が昭和59年審判第7004号事件について平成5年7月2日付けでした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表第17類「被服、布製身回品、寝具類」とし、「クリニック」の片仮名文字と「CLINIC」の欧文字を上下2段に横書きしてなる登録第742667号商標(昭和40年11月5日登録出願、同42年5月18日登録、以下「本件商標」という。)の商標権者であるところ、被告は、昭和59年4月11日、商標法50条に基づき、本件商標の登録を取り消すことについて審判を請求した。特許庁はこの請求を昭和59年審判第7004号事件として審理した結果、平成5年7月2日、本件商標の登録を取り消す、との審決をし、この審決書謄本を、同年7月19日、原告に送達した。

2  審決の理由の要点

(1)  被請求人(原告、以下同じ。)は、本件商標を被請求人及び通常使用権者が本件審判請求の登録前3年(昭和56年6月7日から同59年6月7日までの3年間)以内にその指定商品中「寝具類」について使用していたと主張するので、この点について検討する。

(2)  審決乙第1号証の1、2(本訴甲第3号証の1、2)のパンフレットによれば、被請求人は、本件商標をポリエステル繊維を素材とする「ジュニア用ふとん」に使用している事実を認めることができるにしても、上記パンフレットが井上印刷株式会社から3000部納品された日時は、昭和52年12月20日以降であると認められこれが本件審判請求の予告登録前3年以内にわたり使用されていたというには極めて僅かな部数であるといわざるを得ず、上記書証をもって本件商標の使用の事実を認めるには足りない。

審決乙第2号証の1、2の各雑誌に表示された商標は本件商標と社会通念上同一と認めることができるが、上記の各雑誌の発行年月日は、昭和53年4月1日であることから、上記の各書証を本件商標を本件審判請求予告登録前3年以内に使用されていたものとはいい得ない。

被請求人は、通常使用権契約(審決乙第3号証、本訴甲第5号証の1、2)に基づき、通常使用権者が本件商標の付された「ジュニア用ふとん」を販売していたことよる本件商標使用の事実を実物写真(審決乙第4号証、本訴甲第6号証)により立証しようとしているが、上記の実物写真の枠外に表示された「84」の数字から判断すれば、上記写真は本件審判の予告登録前である1984年(昭和59年)に撮影されたものであることが認められるとしても、上記写真の撮影場所、撮影者が明らかにされておらず、また、昭和58年6月29日に購買者である「ヒカリクリーニング」なるものに納品したことを立証しているものの、この納品書は手書きであり、また、取引の相手先の実在が明らかでないことからすれば、上記の書証は、客観的証拠能力を有するものとは認められない。

したがって、以上の審決各乙号証によっては、本件商標の使用の事実は立証されていない。

(3)  よって、本件商標の登録は、商標法50条2項により取り消されるべきである。

3  審決の取消事由

審決の理由の要点(1)は認める。同(2)のうち、審決乙第1号証の1、2のパンフレットが井上印刷株式会社から原告に3000部納品された日時が昭和52年12月20日以降であることは認めるが、その余は争う。

本件商標は昭和52年頃以降今日まで使用されているのであるから、審決の上記不使用の認定は以下に詳述するとおり、事実誤認であり、違法であるから、取消しを免れない。すなわち、原告は、アレルギー対策として、原告の製造に係るポリエステル繊維(東レ「テトロン」)を素材とする防ダニ、防塵等を特色とする布団など寝具類の製造・販売を企画し、これに本件商標を使用することとした。そして、これに基づき、株式会社尾崎綿行及び大東綿業株式会社等の寝具類の製造卸業者に上記の布団等の寝具類を製造・販売させることとし、昭和52年12月19日及び同54年1月30日、株式会社尾崎綿行に、同53年頃、大東綿業株式会社にそれぞれ本件商標の使用を許諾した。そして、上記の両社は、原告からポリエステル繊維の布団綿を購入して布団などの寝具類を製造して、これに原告から支給された本件商標を表示したパンフレット及びラベルを付して、株式会社尾崎綿行においては、昭和52年頃から同62年頃まで、大東綿業株式会社においては、昭和53年頃から同61年までの間、前記寝具類を販売していた。ところで、前記パンフレットは、昭和52年12月2日、井上印刷株式会社に3000部を発注したものであり、また、前記ラベルは、本件商標を表示すると共に製造・販売元として前記各社を表示したものであるところ、これを昭和53年3月31日及び同54年9月12日井上印刷株式会社に合計2000枚発注・製作したものであり、これらのパンフレット及びラベルは前記各社に原告から支給されたものである。

審決は、上記の3000部のパンフレットの部数をもって、極めて僅かであるというが、本件商標を使用していた寝具類は、アレルギー対策用という特殊な製品であり、取扱業者も少なく、また、年間販売数量も少なかったので、昭和52年から約10年間にわたって前記の3000部のパンフレット等で足りたものであるから、極めて当然のことといわなければならない。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

請求の原因1、2は認める。同3のうち、原告がその主張の日に株式会社尾崎綿行との間において本件商標の使用許諾契約の締結したこと、及び、原告主張の日に本件商標を表示したパンフレット及びラベルを原告主張の数量発注・製作した事実はいずれも認めるが、その余は争う。審決の認定判断は正当である。

原告援用の甲第7号証の1、2の売上伝票は取引書類ではなく、いつでも作成可能なもので信用性に乏しく、また、各陳述書等も10年以上前の事柄であることに照らすと、いずれも信用性に乏しく、これらをもって、本件商標が前記所定の期間内に使用されていた事実を証明するには足りないものというべきである。

第4  証拠

証拠関係は証拠目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1、2は当事者間に争いがない。

2  そこで、本件商標についての審判請求の予告登録前3年以内の期間内(昭和56年6月7日から同59年6月7日までの期間であり、この点は当事者間に争いがない。)における本件商標の使用の事実の有無について、以下、検討する。

原告が、本件商標を表示したパンフレット(成立に争いのない甲第3号証の1のパンフレット)を昭和52年12月2日、3000部、また、本件商標を表示したラベル(成立に争いのない甲第4号証の1、2)を昭和53年3月31日及び同54年9月12日に合計2000枚それぞれ発注・製作した事実並びに原告が株式会社尾崎綿行に対し、昭和52年12月19日及び同54年1月30日、本件商標の使用を許諾した事実はいずれも当事者間に争いがない。そして、いずれも成立に争いのない甲第5号証の1、2、第8ないし第10号証及び第12号証、「クリニック」以外の記載部分の成立は当事者間に争いがなく、同部分は証人尾崎雅幸の証言により成立が認められる甲第7号証の1ないし3、証人長谷川薫こと長谷川正道の証言により成立の認められる甲第11号証の1ないし4、本件商標の付された寝具類を昭和59年に撮影した写真であることが当事者間に争いのない甲第6号証、並びに上記各証言によれば、株式会社尾崎綿行は、昭和52年以降、原告から本件商標の使用許諾を受けるとともに、原告から布団生地及び原綿を仕入れ、これを掛布団や敷布団に製造加工し、本件商標及び製造・販売元として尾崎綿行の名称の記載された前記のラベル(前掲甲第4号証の1)を原告から支給され、これを前記布団に付して昭和62年頃まで問屋、布団専門店等に販売したこと、これらの布団は、小児喘息発作やアレルギーの予防に効果的であることを特徴とした商品であることから、年間の販売数が限定されていたこと、原告は、昭和53年、大東綿業株式会社との間でも、本件商標の使用許諾契約を締結し、大東綿業株式会社において、原告から仕入れた原綿等を用いて掛布団や敷布団等を製造し、本件商標及び製造・販売元として大東綿業株式会社の名称の記載された前記のラベル(前掲甲第4号証の2)を原告から支給を受け、これを前記布団に付して昭和60年頃まで、東京都渋谷区恵比寿にある「ゑびすやふとん店」等に販売したこと、大東綿業株式会社から本件商標の記載された前記ラベルの付された布団等を仕入れた前記の「ゑびすやふとん店」は、昭和54、55年には、上記の布団の販売宣伝のために、本件商標の記載された前記のパンフレットを国立小児病院で配付するなどしてその販売に努め、昭和60年頃まで、前記ラベルを付した布団等を毎年少なくとも10組程度その得意先に販売してきたこと、以上の各事実を認めることができ、他にこれを左右する証拠はない。

被告は、前記の売上伝票や各陳述書等の信用性を論難するが、上記の各陳述書等の記載内容は、その余の前掲各書証の記載内容及び前掲各証言と符合しており、特にこれを不合理とする点も見いだし得ないから、この点に関する被告の主張は採用できない。なお、審決は、前記のパンフレットやラベルの作成部数が少ないことをもって、それらの作成時期からすると、前記の所定期間内における本件商標の使用の事実を証するには足りないとするが、前記認定のとおり、本件商標を付した布団等は、喘息やアレルギー予防を目的とする用途の限定された特殊な商品であって、広く一般人を対象とする通常の商品と異なり、その販売数も限定されていることは既に認定のとおりであるから、上記のような商品の特殊性に照らすと、前記の程度の部数であっても、前記の所定期間内まで使用することも充分に可能であると推認することができるから、審決の前記の認定は、本件商標が用いられる商品の特殊性を考慮に入れない点において、誤っているというべきである。

以上の各事実によれば、原告において本件商標の使用を許諾した前記尾崎綿行や同大東綿業がその製造した布団製品について、本件商標の記載されたラベル等を上記布団等に付して販売する行為は平成3年法律第65号による改正前の商標法2条3項2号に該当するから、原告が、昭和56年6月7日から同59年6月7日までの期間に本件商標を使用していた事実は明らかであるというべきである。

そうすると、前記期間内における本件商標の使用の事実は認められないとした審決の判断は誤っているから、審決は違法として取消しを免れないものというべきである。

3  よって、本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、附加期間の定めについて同法158条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 田中信義)

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